2016/01/26に,渋谷区千駄ヶ谷のSYDホールにて第25回 JUSEパッケージ活用事例シンポジウムが開催された.今年は,JUSE-QCASの発売開始から30年の記念イベントでもある.例年とは異なり,日本科学技術研修所本社ビルではなく,近隣のSYDホールで開催されたが,会場は満員となり,最終的な参加者は114名であった.
(株)日本科学技術研修所の宮久保氏による会場案内等の事務連絡から始まった.司会は,東京理科大学の野澤昌弘先生が務められ,プログラムの紹介がなされた.
開会の挨拶として,酒井融二(株)日本科学技術研修所代表取締役社長から,シンポジウムのねらいが説明された.統一テーマとして,「データ分析の現状とこれからの課題」を取り上げ,品質改善や統計解析についての実務で役に立つテーマを学の先生方が講演するとともに,産業界の優れた実践事例や,創意工夫,業務上で体験した苦労話を共有することを通じて,相互の情報交換の場としていただきたいとのことであった.
さらに,StatWorks英語版の販売代理店がベトナムとメキシコに立ち上げられ,海外企業のネットワーク版導入など,国際的な位置づけも確立しつつあるとのことであった.また,StatWorks/V5の機能拡充に関して,リビジョンアップ版の公開などさらに機能が充実している.2016年度上期にも,手法選択ナビゲーションツールやMTシステムの両側T法やRT法の搭載が予定されているとのことである.
最後に,本シンポジウムの2日前に,元東京理科大学の芳賀敏郎先生がご逝去されたことについても触れられた.芳賀先生は,昨年まで毎年このシンポジウムにご参加されていた.
1件目は,StatWorksの前身である「JUSE-QCAS」の開発委員長であり,東京大学名誉教授の久米均先生からの「データ分析の面白さとこれから」という講演である.先生が,1959年に旭硝子の川崎工場で自動車用ガラスの不良の解析を始めたころは,データの分析をすることで様々なことがわかっていた.不良を減少させ,業績を上げることができていた.いまでは,データを取ってもよく分からないことが多くなった.現場で,問題に即したデータの取得と深い分析が必要になってきた.データに付随する問題はいくつか存在する.データをとるということ自体が母集団を変えてしまう.交通安全週間になると,報告が盛んになって事故件数が増えてしまう.品質管理を始めると検査が厳しくなり,やる気を出して,見た目上には不良が増える.普段やっていなかったことを始めると問題が増えたかのように見えてしまう.
1960年代のデータ分析の問題は,ブロック因子,交互作用,仮説検定であった.実験の場を均一にするためにブロックを導入した.わずかな差を見いだすために,作業者や原材料のバッチをブロックとしてもよいが,品質管理の立場では,作業者が変わると品質が変わるでは困る.ブロック因子とは,改善の余地を示唆しているものとしてとらえるべきであることを示している.実験計画法の専門家からすれば抵抗のある表現だろうが,品質管理の立場からは高度な手法を用いて正しい分析するというよりも,ばらつきに強くなることがより大切である.
これからのビッグテータの解析は,記述統計から推測統計への移行してきた流れが,再度記述統計に変化しつつあるととらえられる,すなわち,新たな分析・着眼点が必要である.データの取り方・まとめ方について,よく考えることが重要であろうとのお話であった.
2件目は,日立製作所ひたちなか総合病院の小室万左子氏・永井庸次氏から,病院内でITを活用した看護業務の先進的実践と科学的分析に関して「名札型赤外線センサーを用いた看護業務の可視化」についてであった.日立ハイテクノロジーズ社による組織活動可視化システムを用いて,病棟看護師の看護業務を可視化し,分析している.
名札型センサーと電子カルテの情報を突合わせることで,リアルタイムに看護業務を把握可能にしている.講演では,膨大なデータ分析の一部を紹介いただき,いつ,だれが,どこにいるのか,どのような患者に看護業務がより多く必要となっているのかという分析を通じて,人員配置,動線分析に基づく効率化など,看護業務だけでなく,さまざまな分野に応用できる内容であった.
データ取得の苦労についてもお話があり,調査対象者の協力を得ながら進めていかれたこと,一回目の調査では,センサーの感知率が低く,センサーの装着方法や配置等の改善を進めて,業務分析を可能にしていったさまが語られた.
早稲田大学創造理工学部の梶原千里先生からは,「タッチパネルの操作感の改善方法に関する研究」について報告がなされた.最近では,様々な製品にタッチパネルが搭載されている.消費者は,携帯電話などで高機能のタッチパネルの操作経験が十分である.一方で,そのような高機能なタッチパネルを自社の製品に搭載できるとは限らない.消費者がどのような点にタッチパネルの要求を持っているのかを明らかにし,製品開発につなげることは重要である.評価者は,評価対象物が何であるかを知りながら評価するため,正しい評価は困難である.また,評価者によっても差異がある.これらのさまざまな違いが含まれたデータから製品開発に有用な情報を抽出するため.評価用語の設定から,アンケートの作成・分析に至るまでの一連の手法を提案している.先ほどのさまざまな個人差を考慮するため,主成分分析,クラスター分析,グラフィカルモデリングなどの手法を活用している.これらの手法はStatWorks上で実施可能であり,一連の手法の流れが紹介された.質疑では,経験や個人差を扱うことの難しさについて議論がなされた.
トヨタ車体(株)の鈴木通溶氏・則武雅人氏からは,「インストルメントパネル変形モード予測式構築」について報告がなされた.インストルメントパネルの形状が変更されたことにより,建付け調整工程への負荷が高くなっていた.一方で,どの部位がどの程度変形するのか,また,どの程度の変形が操作性に影響するのかなどは明らかではなかった.そこで,変形モードの明確化を目的として,L18直交表を用いた応答曲面法による検討および2水準直交表に基づいた実験から,最適条件の検討を可能にした.重回帰分析を通じて,外乱に強い構造への変更を検討するきっかけとなった.
(株)アーレスティプリテックの杉山尚氏からは,「ダイカスト部品加工の加工刃具消耗費の削減」について報告がなされた.フライス加工の際に用いられる刃具の寿命を延ばして,刃具消耗費の削減を図っている.ワイブル確率紙からは,摩耗故障型ではなく,偶発故障型のようにみえ,詳細を分析すると,異なる傾きが2つ存在していた.一元配置分散分析を様々な因子について逐次的に実施していき,最適条件を探索していった.最終的には面粗さに着目して,最適水準を求めたことで,ワイブルプロットを用いた効果の確認をしており,刃具消耗費は削減された.
三菱電機(株)の鶴田明三氏からは,「StatWorks/V5(品質工学編)の新機能”エネルギー比型SN比”を用いた設計品質の評価」について報告がなされた.StatWorks/V5(品質工学編)では,従来型のSN比による検討に加え,筆者らが提案するエネルギー型SN比を用いた解析が可能である.提案するエネルギー比型SN比は,データの数や信号値の大きさが異なる場合においても,エネルギー型SN比の値どうしを比較・検討できるというメリットがある.報告では,従来型のSN比の課題を列挙し,それぞれについて,エネルギー型SN比がどのように克服しているのかについて丁寧な解説があった.とくに,計算の複雑さを解消し,自由度および誤差の分散の計算を不要にするなど,初学者にとって易しい内容となっており,品質工学入門者にとって挫折しやすいポイントである複雑そうに見える計算を簡略化している点のメリットは大きい.現時点で,エネルギー比型SN比に基づくパラメータ設計を行える市販の統計ソフトウェアはStatWorksのみであるとのことであった.
(株)日本科学技術研修所の冨田真理子氏からは,StatWorksリビジョンアップ版の新機能とそのメリットについて紹介があった.シンポジウム当日時点での最新バージョンはR5.41であり,R5.40でさまざまな機能アップがなされている.
とくに,ヒストグラムや管理図においては,解析結果の保存が可能となった.これにより,最初の解析者とは別の解析者が結果を確認することが容易となった.質疑でも,他の分析ツールへの拡張を期待する声が上がった.他にも,散布図において,層別後にデータ探索が可能となったことや,実験計画法の混合系直交表や多水準・擬水準を用いた計画を作成可能になるなど,他の機能もさらに進化している.
StatWorks活用エキスパート賞を受賞したアイシン精機(株)の澤田昌志氏には,「全社でSQCを日常的に活用する取り組み」を紹介いただいた.SQC活用のあるべき姿として,日常の業務の中で思いのままにつかいこなされ,やり直しのない確実な仕事がすみやかにできていることを挙げられていた.
2002年のスタンドアロン版の導入に始まり,2003年にネットワーク版,2011年にはStatworks/V5へのバージョンアップに伴い,ライセンスの管理機能を活用し,全領域での日常的な活用を可能にしている.活用の推進については,支援体制として教育やテーマ活動の導入,キックオフ説明会やかわら版によるPR活動,指導者の認定などのインセンティブの3つの活動を通じて,全社的な活用を可能にしているとのことであった.その結果,2014年におけるSQCを活用した重要問題解決件数は,2010年と比べて2倍に増加し,QC検定の合格者の増加のペースもさらに加速している.また,Statworksをどの程度起動しているか,その中でもどの手法を用いているのかを推進部として把握することで,活用を強力に推進しているさまがうかがえた.
会場からの質疑では,「設計部門に活用してもらうにはどうすればよいか」,「QC検定をまじえてSQCを活用する雰囲気をどのようにつくればよいか」などの議論がなされた.
一日にわたり,産学の立場から,データ分析の現状とこれからの課題について議論を深めることができるシンポジウムとなった.会場の雰囲気を少しでもお伝えできていれば幸いであるが,筆者の力不足によりすべてを余すことなく伝えることはできていない.本年度ご参加いただけなかった方は,来年度のシンポジウムにご参加いただき,雰囲気を体感して日常の活用のヒントにしていただければと思う.
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