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第26回 JUSEパッケージ活用事例シンポジウム「価値を生むためのデータ分析の考え方」を終えて(著者 堀本ゆかり氏 (国際医療福祉大学))

1.はじめに

開催25回記念イベントでもある第26回 JUSEパッケージ活用事例シンポジウムは,2016年12月8日に,新宿区西新宿の京王プラザホテルにて開催された.

大変冷え込んだ朝であったが,非常に多くの聴講者が参集し,ほぼ空席がなく開始された.最終的な参加者は175名であった.

シンポジウムは,(株)日本科学技術研修所の宮久保氏による会場案内等の事務連絡から始まった.司会は,千葉工業大学の佐野雅隆先生が務められた.

開会に際し,酒井融二(株)日本科学技術研修所代表取締役社長から,25周年記念を迎え,新しい製品やサービスの紹介などを踏まえた挨拶があった.

本年度の統一テーマは「価値を生むためのデータ分析の考え方」であり,ビッグデータや画像解析システムなど新たな考え方に基づく解析手法の活用を意識した内容である.

また,StatWorks英語版の販売代理店がベトナムとメキシコに立ち上げられ,海外企業のネットワーク版導入など,国際的な位置づけも確立しつつある.StatWorks/V5の機能拡充,リビジョンアップ版の公開など更なる充実した機能として10月にはニュートンワークス(株)とのSimulationXとパラメータ設計機能を連携させたCAE設計支援ツールの共同開発,来年3月までに,手法選択ナビゲーションシステムのサービスを開始し,StatWorks/V5英語版の開発販売,MTシステムの両側T法やRT法,直積法・累積法・CAIDなどの新手法を公開するなど今後の事業展開についてもふれ,2018年4月から,StatWorksの姉妹製品としてビッグデータ解析ツールを順次提供する計画であると報告された.

2.記念講演


西内 啓 氏
報告資料(152KB)

本シンポジウムの記念講演は,「統計学は最強の学問である」の著者であり,(株)データビークル取締役の西内啓先生が務められ,「統計的品質管理『それ以外の領域』で使うには」というテーマで講演された.講演は,現在の所属以外の職域の内容についてより理解を進めるために本テーマを選択されたこと,東京大学医学部(生物統計学)では,医学を学ぶためでなく人間を理解するうえで統計学を学ぶという進路を選び,行動科学とデータ分析のスキルが,ビジネス業界で大きく役立ったという話題から始められた.医学ではエビデンスの概念がうまれる前は経験と勘と臨床推論で進められていた.次第に統計が必要とされるようになり,EBMに基づくことが求められるようになった.教育や顧客や株主も同様にエビデンスが求められている.

統計学,とくにサンプリングの理論と実際の世界的権威であるデミング先生が1988年10月に京王プラザホテルに宿泊された際のエピソードにも触れつつ,不良品率で賞罰を与える「マネジメント」としてビーズ実験の事例をあげ,間違った原因に導かれる危険性について紹介した.原材料の調達先の変更,権限の委譲とプロセスの変更,設備投資など仕組みのポイントに投資をすることを考える,つまり背後にある原因を追究し,メリット(利益)を追求することがマネジメントであるということがデミング先生の教えである.利益につながる指標は品質以外にも顧客の心理や従業員の能力,調達元の属性など社内の各部署にある.変え得る要因と変え難い要因を分析し,最適化に向けたリソースを活用する事が重要である.

ビッグデータ活用の課題は,体制/組織の整備,導入する目的の明確化,費用対効果の説明,人材の育成,分析する対象の選定など,何を分析したらよいかわからない状態である.

データ分析の理想の状態とはPDCAサイクルを活用することである.また,Research designという書籍を紹介し,データ分析の『作法』について述べた.さらに,データ分析の2つのポイントはアウトカムと『望ましさ』を比べる(解析)単位を設定することができると様々な手法で分析することができる.望ましい状態と望ましくない状態の違いを見つけることに注意すると,どこから手をつけて良いかわからないという事態を回避できる.良いアウトカムは,確実性(確かに長期的な利益に直結しそう)・堅牢性(「ズル」がしにくい)・公平性(同じ値であれば同じ望ましさ)であることが重要である.また,解析単位を選ぶルールには,件数・多様性・情報量・変容性がある.業務のことがよく分かっている人と議論し,リサーチデザインを構築する.分析リテラシー,SQLとRで統計解析,Excelでの統計解析などを用いて意思決定などに結びつける.その結果,共通言語が生まれ,データ分析を競争力とする組織となる.

最後に成果自体でなく背後の原因を考えること,アウトカムに直結するアクションをすること,小さくても回りきるサイクルを継続的に行うことが重要であるとまとめられた. 最後に(株)リコーの廣野元久氏と司会の佐野雅隆先生が感想を述べられた.

3.事例報告

事例1


大川 嘉一 氏
報告資料(408KB)

(株)アーレスティ大川嘉一氏からは,「統計的手法を活用した加工条件の最適化」について報告がなされた.四輪自動車や船外機などのアルミニウムダイカスト部品の過程である切削加工のうちフライス加工の改善事例の紹介である.目標はフライス加工前に発生する段差を低減する加工条件の見極めである.要因解析の結果では,大きく3つの要因について検討がなされた.さらに切削の条件について絞り込みを行い,検証をすすめた.切削の際に面粗度を向上させるためのワイパー設定値,取り代の大小およびツールパス(ダウンカット・アッパーカット)に対して,一元配置分散分析を行った結果,いずれも有意差は認められなかった.切削速度変化と回転数は有意差を認めたが,送り速度は有意ではなかった.以上より,切削速度の変更は送り速度の原因があり,切削速度の変化がないものが良いことが確認された.生産性を最大にする最適条件の検討では,重相関係数0.928で回帰式が得られた.要因検証で有意となった条件に変更することで,生産性の向上が期待できる条件が得られたとの報告であった.

コメンテーターである日本発条(株)の南賢治氏より,段差のスペック幅のバラツキ,20個のサンプルに対して作製したロット数,管理図について質問があり解析の考え方について議論がもたれた.

事例2


鈴木 通溶 氏
報告資料(726KB)

QCテクニカルコーディネーターの鈴木通溶氏からは,「“実際にSQCを活用しよう!”技術者のためのSQC~シミュレーション技術とSQCと統計解析ソフト」について報告がなされた.これまでの演者の業務履歴の経過で,開発部門からSQCを展開することとなった.トヨタ自動車(株)TQM推進部では問題解決に取り組み,全体の80%で手戻りなく多くの作業を完成させることができた.次に,社外研究会活動による成果であるスパイラル・ファンテン効果についてふれ,固有技術の確立と核になる人材育成の取り組みが紹介された.セルシオのシートフレームチクソモールディング工法の導入計画について,連関図を作成するため,模造紙に付箋を貼り付けて作業を進めた.部署内SQC活動を兼ねて,新工法ドアトリム成形不具合解決支援や交通事故撲滅活動など連関図を用いて整理した.さらに,因果関係を見える化した系統図やPDPCの実務活用事例を用い,人材育成への取り組みについて紹介した.シミュレーション技術とSQC活動を融合させ,さらにStatWorksを用いることによって実務に専念することが重要である.

コメンテーターの廣野元久氏は,言語情報の課題が保存されないという問題提起があると感想を述べ,演者に統計的なサポートは設計者と推進者のどちらがよいかという質問を投げかけた.

事例3


飯田 一郎 氏
報告資料(181KB)
報告資料(1.12MB)

神戸山手短期大学の飯田一郎先生からは,「官能評価データの嗜好性と多様性」について報告があった.化粧品のトレンドを数字で表し,評価・行動に影響する生活者の属性・背景の分析を研究テーマとされている.演者が講義で用いている資料なども用いながら, 導入教育事例「データと評価技術」について報告があった.「言葉」と「対話」が未熟で語彙力が少ない若い世代が情報分析・官能評価を身につけることを官能評価教育の目標としている.化粧水をテーマに気象と肌の関係について,気象庁のデータなどを用いデータ分析を進め,定番商品に絞り込んでいくプロセスが紹介された.その中では定番化するための情報について分析し,アイキャッチ・訴求性・リピート・恒久性などリアルな体験が定番化につながることが示された.最後に使用感や嗜好性について,主成分分析で分析し,数値データに集中しすぎないこと,基本的なツールを整備しておくこと,時系列に現場を想像すること,双方向的にユーザーと創出し,価値を捉える事が重要であると結んだ.

フロアに対してアンケートの設問や集計に対してアドバイスを実施した.評価者がプロと素人の場合,差が生じるのではないかという質問に対し,プロはスケールを一般化し,標準化を徹底していると回答されていた.

コメンテーターである廣野元久氏と司会の佐野先生からは官能評価は個人差と分析の難しさについて質問とコメントがあった.

事例4


加藤 幸雄 氏

日野自動車(株)シャシ機構設計部の加藤幸雄氏からは,「制動移動発生メカニズムの解明」について報告がなされた.日野自動車は安全性向上のため,様々なバラツキ等の要因による車両の不安定挙動の改善に取り組んでいる.最大速度からの緊急ブレーキをかけ,ドライバーによる修正を行わない状況で,制動移行の要因に向け問題解決アプローチを実施した.制動移行の主要要因はブレーキ片効きやリンクモーションエラーがある.今回は,バラツキ等の制御できない要因でなく構造上の解決が期待できるリンクモーションエラーについて検討された.ボールジョイント位置変化に着目して,要因分析をすすめ,誤差因子と制御因子を設定し,L18混合系直交表に制御因子を割り付け実験が進められた.その結果,SN比と感度について実現象と解析結果が合い,重要な制御因子と水準が明らかとなり,解析の妥当性を確認できた.

フロアからは,路面の状況やタイヤの摩耗を取り上げていないのはなぜかということ,誤差因子の取り方,左右のアンバランスなど,制御因子の最適因子を選んだことについて質問があり,活発な議論となった.コメンテーターの南賢治氏より,バリエーションへの対応についてどのように盛り込んでいくか質問がされた.プレゼンテーションはわかりやく工夫されていた.

4.製品紹介


犬伏 秀生
報告資料(463KB)

(株)日本科学技術研修所の犬伏秀生氏からは,StatWorks/V5の新機能サービスについて紹介があった.CAE連携機能,手法選択ナビ,V5英語版,両側T法・RT法,ビッグデータ解析ツールの実施予定期間が示された.


南 賢治 氏

コメンテーターである日本発条(株)の南賢治氏よりインターネット検索のものとの相違点は何かという質問に対し,手法選択ナビは,目的に合ったものが提供され,問題は一般化して手法を選ぶようになっているとの回答があった.

5.エキスパート賞受賞講演

第12回StatWorks活用エキスパート賞は(株)アーレスティの野中賢一氏が受賞した.「アーレスティにおける人材育成とStatworksの活用」というテーマで業務改善推進課の雑賀美保子氏が海外出張中の野中氏に代わり受賞講演を務められた.アーレスティの人材育成は,技術者の育成のため,多変量解析などのセミナーや報告会を開催している.再利用可能な知識を増やし,良品製造工程を実現するために,StatWorksを利用し人材育成を進めている.

6.おわりに


来場者に配布された要旨集と
ヒストグラムバッグ

本シンポジウムは,産学から多彩な人財が集い,活発な討議となるところに大きな魅力がある.自身の専門分野の情報交換と,未知の領域における新しい発見が得られる.この熱気は,シンポジウムの会場でしか味わう事の出来ない空気感である.来年は是非,足をお運びいただきたい.明日への活力になる好機となるに違いない.

著者:堀本 ゆかり 氏
国際医療福祉大学
保健医療学部 理学療法学科

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