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第42話 山々のモーメント(六一学者の千字一話)

吉澤正先生御逝去に寄せて

六一学者の千字一話  六一学者 (吉澤 正氏)
六一学者 - 吉澤 正氏
(第10回JUSEパッケージ活用事例シンポジウムにて)


前回の41話では,広い台地を持つアイルランドの山の姿から,台地分布族を発想して,その確率的な特性を検討した.

日本の山々は,富士に代表されるように美しく裾(すそ)を引いている姿が多い.そこで,今回は,手元にあった有名な広重の富士の版画やさぬき(讃岐)富士の絵葉書などからいくつかの山の姿を確率密度関数とみなして分析してみた.

トレーシングペーパーに写しとって測定

もとの図の大きさは10cmぐらいから15cmぐらいの幅であったが,トレーシングペーパーに写し取って,方眼紙の上におき,だいたい1cmぐらいの間隔で高さを読み取った.

横軸の間隔は,必ずしも等間隔でなく,変化が急な辺りではすこし細かくデータをとった.これをエクセルシートに入力して,横幅を区間[0,1]に,高さの最低点をゼロに,確率密度関数とみなすために面積が1になるように規格化した.

規格化して比較

その結果が下の図で,開聞岳,さぬき富士,JABマークの外形(筆者が関係している環境マネジメントシステムの認定機関である日本適合性認定協会のマークで,アルファベットのAを図案化したものだそうであるが,富士山マークともいわれている),有名な北斎の版画の富士,そして,それをほぼ対称形になるように書き加えた富士,全部で5つの例である.


図1. トレーシングペーパーで読み取って規格化した山の姿 拡大表示

標準偏差やひずみなどを計算

これらの図のデータから,それぞれを確率密度関数として,近似的に数値計算で平均,分散,標準偏差,ひずみ,とがりなどを計算した.また,横幅と標準偏差の比率としてシグマ幅(横幅/標準偏差)を計算した,その結果が表1である.

表1. 山の形の特性値
山々のモーメント
山の名前平均分散標準偏差シグマ幅ひずみとがり
開聞岳0.4730.0420.2054.869-0.104-0.425
さぬき富士0.5160.0430.2074.840-0.148-0.567
JABマーク0.5300.0460.2154.647-0.319-0.595
北斎富士0.6780.0410.2034.937-0.663-0.089
北斎富士対称0.5270.0540.2324.319-0.040-2.006

シグマ幅は,絵の幅が標準偏差の5ないし6倍ぐらいあると,美しいと思われるのだがいかがであろうか.これを仮説としてもう少し検証してみたいところであり,読者諸賢の意見を聞かせて頂きたい.

ひずみがマイナスの場合は,非対称であることを表しているが,北斎の富士は右側が切れていて非対称で,ひずみは−0.6となった.その右側をほぼ対称に延長してみたのが最後の図であるが,ひずみがほぼゼロになったのはよいが,とがりが−2.0とマイナスで大きい.正規分布の場合はゼロであるから,とがりが小さいという結果で,図から受ける印象とは違う.

前回の41話で三角分布のとがりが−0.6になり,左右の切り取られた分布では,とがりはマイナスになることを説明した.これと同じで,とがりは,分布のすそがきいてくるので,すそがない分布では,とがりはマイナスになるのが普通である.

計算手順について

数値計算の手順を念のために書いておこう.

準備. トレーシングペーパーで山の形の輪郭を写し取り,方眼紙にのせて,横軸の位置と縦軸の高さを10点ないし20点ぐらい読み取る.

  1. 横軸を1列に入力.エクセルを使用することを前提とする.
  2. 高さを2列に入力.
  3. まず,横の幅を1に規格化する.xの領域を区間[0,1]とする.3列(x).
  4. 高さの最低点をゼロになるように下げる.④列.
  5. 隣同士の2点で囲まれる台形の面積を合計して(台形則で)面積を求める.5列.横軸の幅が等間隔でないこともあるので,隣同士のxについての差と縦軸の高さの和をかけて2で割って台形の面積とする.
  6. 高さを面積で割って基準化する(その高さを確率密度fとする).6列(f).
    以下,4列のxと6列のfを用いる.
  7. x * fを計算.7列.
  8. 台形則で積分して,平均を求める.8列.
  9. 偏差(x−平均)の2乗を計算しさらに密度fをかける.9列.
  10. 台形則で積分して,分散を求め,その下に標準偏差を求める.10列.
  11. xの基準化uを計算する(偏差を標準偏差で割る).11列.
  12. 基準化uの3乗に密度fをかける.12列.
  13. 積分してひずみを計算する.13列.
  14. 基準化uの4乗に密度fをかける.14列.
  15. 積分し,3を引いてとがりを計算する,15列.

以下に,開聞岳について計算した例を示しておく.

山々のモーメント開聞岳
12345678
x測定高さ測定xf*面積密度fx * f平均
00.70.000.500.340.00
11.00.080.800.0540.540.050.0019
21.20.171.000.0750.680.110.0066
31.70.251.500.1041.020.250.0153
42.00.331.800.1381.220.410.0276
52.70.422.500.1791.700.710.0465
63.40.503.200.2382.181.090.0748
72.80.582.600.2421.771.030.0883
82.00.671.800.1831.220.820.0770
91.30.751.100.1210.750.560.0574
100.90.830.700.0750.480.400.0399
110.60.920.400.0460.270.250.0269
120.21.000.000.0170.000.000.0104
0.21.47080.472616
min面積平均
開聞岳つづき
9101112131415
( x - µ ) ^2 * f分散xの基準化3乗ひずみ4乗とがり
0.0759-2.301-4.1439.535
0.08240.0066-1.896-3.704-0.3277.0220.690
0.06360.0061-1.490-2.248-0.2483.3490.432
0.05050.0048-1.084-1.299-0.1481.4080.198
0.02370.0031-0.678-0.382-0.0700.2590.069
0.00530.0012-0.272-0.034-0.0170.0090.011
0.00160.00030.1330.005-0.0010.0010.000
0.02170.00100.5390.2770.0120.1490.006
0.04610.00280.9451.0320.0550.9760.047
0.05750.00431.3511.8430.1202.4890.144
0.06190.00501.7562.5790.1844.5300.292
0.05360.00482.1622.7490.2225.9440.436
0.00000.00222.5680.0000.1150.0000.248
0.04218-0.104-0.425
分散ひずみとがり
0.205374.9
標準偏差シグマ幅

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