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Essay 安部 季夫氏(ちょっと一言)

ちょっと一言


元・埼玉工業大学
工学部基礎工学 教授
安部 季夫氏

最近のニュースを聞いていると,グローバルスタンダードに従わずITを駆使しないと,社会から疎外されそうな雰囲気がある.経済を再生するには世界標準に従って,英語で,ITで生産性のよいシステムを構築しなければならないのだろう.しかし一方では「顧客は多様で…」「仕事をするには,個性があって,人と違う発想ができないと…」と「違い」が強調される.これももっともなことである.

ものごとには平均(傾向)とばらつきがある.データ解析では,平均値と平均からの偏差を調べる.偏差は標準偏差に要約される.多くの工業製品では,平均値を高め,標準偏差を小さくしようとする.しかしそれではすまない問題も少なくない.人にはノッポもいればデブもいる.当然着る服は違う.これを,大量の既製服を生産するために体系を揃えることはできない.人は年をとる.言葉がしゃべれなくなる.食べ物を飲み込めなくなる.歩けなくなる.….介護が必要になる.必要になる介護の種類と量は人によって全く違う.提供しなければならない介護は,その人の生活環境によっても大きく変わる.お仕着せの決まった介護では役に立たない.

このように違いが問題になると,平均でなく,どのように違うかを明確にして対処方法を考える必要がある.われわれは,洋服屋の店頭で自分に合う既製服を選ぶことができる.これは,大量の体型データを,主成分分析その他の統計手法で多変量のばらつきを解析し,クラス分けして規格にまとめ,既製服をつくっているからである.介護保険では,特別養護老人ホーム等の延べ1000万分の介護業務量調査から,高齢者に必要な介護を2進岐分類等の統計手法で解析し,要介護度の認定に使わっている.

とかくものごとを平均値で見ることが多い.平均値で見える情報は誰もが知っていて,あまり魅力がない.統計解析をしたと言っても,データを平均値と標準偏差に要約しただけでは,問題点を見つけるには不十分なことがある.40年近く前,コンピュータで統計解析をしていて,先生から「統計量を計算するだけでなく,個々のデータを大切に見なさい」と言われた.最近の統計解析ソフトは統計量の計算だけでなく,データを吟味できる.しかし一方では,コンピュータで大量のデータを集積し,膨大な計算で解析するが,とても個々のデータに戻って考えることができない状況もある.これから,どうなっていくのだろうか.(安部 季夫)

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