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第38話 (続)日本列島ジニ係数 —シャンパンボトルの列を見て—(六一学者の千字一話)

吉澤正先生御逝去に寄せて

六一学者の千字一話  六一学者 (吉澤 正氏)
六一学者 - 吉澤 正氏
(第10回JUSEパッケージ活用事例シンポジウムにて)


第37話では,九州から北海道へ日本海を直線的に進んだ台風の進路図を使って,ジニ係数の計算方法を説明した.そこで日本列島ジニ係数と称したものは,形だけの形式的な計算であったが,日本海側の県の一人当たりのGDPとか,太平洋側の都道府県のGDPのジニ係数はどう考えたらよいであろうか.

同じような問題は,「一票の格差」をどう計測するか,ジニ係数で示すことができるかということにも通じる.衆議院や参議院選挙では,各選挙区に割り当てられた定員数が有権者数(選挙人名簿登録者数)に対して一定にはならず,大きく変動するので,しばしば憲法違反ではないかとの裁判にもなってきた.

2006年9月末に安倍内閣が発足したが,自民党内の派閥の規模に応じて大臣がどのように割り当てられたかどうかで,「派閥「格差」がくっきり」などという記事も見られた(日本経済新聞9月26日).

これらの問題に直接的に答える前に,ここでは,今夏の旅行中に泊まったホテルのバーで並べられていたシャンパンボトル(写真)からの発想を紹介しよう.通常のジニ係数は,対象とする変数の分け前のランキングを基にした等間隔の点を横軸に,縦軸には対応する分け前の累積値をとって,折れ線グラフ(ローレンツ曲線)を書いて計算する.それは,分け前が一定のときに平等であり格差がないと考える場合で,平等になるときにはローレンツ曲線は直線で,ジニ係数はゼロとなる.


アイルランドのホテルにて

ところで写真のように大きさがいろいろなシャンパンボトルが並べられていると,ビンの先は,縦方向の高さはもちろん異なるが,横軸で見て等間隔にはならない.そこで,まず,図1aのような等間隔に並んだ棒のようなビンをもとにして,表1のようなデータを作成してみた.

この表1には,ビン(棒)の横幅や横軸での位置のデータは入れていないが,番号順に等間隔とし,ビンの高さを分け前とみなして,累積の分け前を計算し,折れ線の下の台形の面積を計算して,ジニ係数を求めた.ローレンツ曲線は,図1bに示してある.ジニ係数の値は,0.43と結構大きい.ジニ係数の計算手順は前回の37話で説明したが,今回は,ローレンツ曲線の下側の面積を台形側で求め(Cとする),直線の下の三角形の面積(Aとする)から,(A-C) / Aで求めた.

表1. 図1aの棒グラフの棒の高さを分け前として割り当てたとき
番号n横幅W横位置X高さH累積Y面積s単位当たり
分け前H/W
0000
1663
2101611
3203626
4306651
55011691
684200158
合計200340

三角面積 600 ジニ係数 0.43


図1a 等間隔に並んだビン

図1b 表1データのローレンツ曲線

次に,分け前は同じであるが,横の並びを不等間隔にしたデータを作成し(表2),そのローレンツ曲線を図2に描いて,ジニ係数を求めてみた.これに対するジニ係数は0.13となる.そのときの計算は,曲線の下側の面積を台形の集まりとして,横幅が均一でないとしているほかは,同じ手順である.

表2. 横幅の違うビンを不等間隔に並べたとき
番号n横幅W横位置X高さH累積Y面積s単位当たり
分け前H/W
000000-
1226663.0
2351016333.3
351020361304.0
471730663574.3
51027501169105.0
613408420020546.5
合計402003490

三角面積 4000 ジニ係数 0.1275


図2. 表2のデータのローレンツ曲線

配分の問題では,配分される側にグループ(層,級,群,クラスターなどいろいろな言い方があるが)があって,グループへの分け前の平等性が問題なることがある.一般のデータ分析でグループがあるときはグループ間の変動とグループ内の変動が考えられるように(平方和の分解がよく知られている),配分の問題では,グループに配分された後で,さらにグループ内で配分されるとすると,グループ間の平等性とグループ内での平等性が問題になろう.ここでは,まず,グループ間の平等性だけを考えて,グループ内の配分について考えない(あるいは,グループ内では平等に配分されている)場合をとりあげる.

グループ間の平等性については,グループの規模(人数とか世帯など)が異なるときに,グループの規模に比例して配分される場合が平等と考えることが普通であろう.そこで,表2のデータを利用して,分け前がグループの規模に比例する場合の例を表3のように作ってみた.表3のデータでは,規模(単位)当たりの分け前は一定で,ジニ係数は0,ローレンツ曲線は直線になる.この場合が平等な分け方で格差がないと見るのが自然であろう.次に,規模の2乗に比例するような場合を表4に作ってみた.表4のデータでは,単位当たりの分け前は,単調増加で,ジニ係数は,0.23である.

表3. 横幅をグループ規模として,規模に比例して分け前を決めたとき
番号n横幅W横位置X高さH累積Y面積s単位当たり
分け前H/W
000000
1221010105.0
235152552.55.0
35102550187.55.0
47173585472.55.0
510275013511005.0
61340652002177.55.0
合計402004000

三角面積 4000 ジニ係数 0


図4.表4のデータのローレンツ曲線

図3. 表3のデータのローレンツ曲線
表4. 規模の2乗に比例して分け前を決めたとき
番号n横幅W横位置X高さH累積Y面積s単位当たり
分け前H/W
000000
1222221.0
2355713.51.7
35101421702.8
471728492454.0
51027561057705.6
61340952001982.57.3
合計402003083

三角面積 4000 ジニ係数 0.23

さらに,単位当たりの分け前が,単調増加でないような場合について考え,表5のデータを作ると,対応する累積分け前曲線は,図5のように,上に凹でなくなり,でこぼこする.形式的にジニ係数は計算できるが,これはローレンツ曲線とはいえない.ローレンツ曲線は単調増加な量を累積していくとともに,上に凹な曲線とならなければおかしい.

表5. 単位当たりの分け前の順序が規模順でないとき
番号n横幅W横位置X高さH累積Y面積s単位当たり
分け前H/W
000000
1222221.0
2355713.51.7
35102027854.0
471720472592.9
51027701178207.0
61340832002060.56.4
合計402003240

三角面積 4000 ジニ係数 0.19


図5. 表5のデータの累積分け前の曲線
ジニ係数は計算できるが,
ローレンツ曲線とはいえない

そこで,単位当たり分け前(H / W)の変数で大きさの順に並べ替えて,表6のデータを作り,これをもとに図6のように累積分け前をグラフにすると,上に凹なローレンツ曲線となる.そのときのジニ係数は0.22で,図5の場合より少し大きい.

表6. 単位当たりの分け前で並べ替えたとき
番号n横幅W横位置X高さH累積Y面積s単位当たり
分け前H/W
000000
1222221.0
2355713.51.7
471220271192.9
351720471854.0
61330831301150.56.4
510407020016507.0
合計402003120

三角面積 4000 ジニ係数 0.22


図6. 表6のデータのローレンツ曲線
単位当たり分け前で並べ替え

ここに示したように,規模の異なるグループに分配するときには,規模当たりの分け前を計算して,それをキーとして並べ替え,不等間隔で折れ線グラフを書いてローレンツ曲線を作り,台形の面積を累積して,ジニ係数を求めるとよい.

以上は,グループ内の配分については考えていないが,グループ内の配分を考えるなら,グループごとにローレンツ曲線を考えて,図6のような折れ線グラフの下側に,グループごとの折れ線の下にグループ内の格差を表すローレンツ曲線を描くとおもしろい.そして,データの平方和分解や分散比の考え方に見られるように,グループ間ジニ係数とグループ内ジニ係数を計算して,その関係をしらべてみるとよいだろう.これについては,別の機会にとりあげよう.

さらに,資産の格差を考えるようなときには,資産自体が金融資産と土地のような非金融資産にわけられるように,分け前の変数が複数の要素から構成されるようなときの構成要素別のジニ係数と総合のジニ係数の関係も興味ある問題である.

さらに一般に,配分の対象となる変数Hに対して,非配分対象のグループに別の変数Wがあるとき,これを共変数とよぶとよいと思うが,単位当たりの分け前H / Wを計算して,その大きさの順に並べたときのローレンツ曲線に対するジニ係数を共変ジニ係数とよぶといいかもしれない.

以上のような考え方で,最初に触れた都道府県間の所得格差,一票の格差,派閥格差などのジニ係数を求めるとよいだろう.都道府県間所得ジニ係数,選挙区間の票格差ジニ係数,派閥間大臣ジニ係数と称してはどうでしょう.話が長くなったので,それらの計算は別の機会に譲りたい.次の選挙までに,どなたか計算してみてください.


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